日本防衛学会(JADEF)令和7年度研究大会の報告

  • 開催日時:令和7年6月21日(土)09:30 ~19:10
             6月22日(日)10:00 ~17:50
  • 会場:防衛大学校 社会科学館

【6月21日(土)】

部会1A自由論題 (09:30~11:20 司会:岡田美保)

3名の会員がその研究成果を報告した。防衛研究所の相田守輝会員は、アクター中心制度論の観点から、江沢民後期の中国空軍の役割変化を説明した。また、インド工科大学デリー校の池田恵理会員は、総合国力や経済規模に関するデータを紹介しながら、経済安全保障の観点から日印関係を構築していく重要性を説いた。防衛大学校の金子悟史会員は、軍部隊視察に関する公刊資料の詳細な分析に基づき、北朝鮮軍の軍改革動向について報告した。これらの報告に対し、会員2名が討論に立った。岐阜女子大学の矢野義昭会員からは、主に東アジアの安全保障環境及び各報告者の扱う国の安全保障政策の推移という観点から問題提起が行われた。慶応義塾大学の宮岡勲会員からは、政治学的な分析手法の観点から問題提起があり、「経済安全保障」等の基本的な用語の定義を明確にすることの必要性が指摘された。

部会1B自由論題 (09:30~11:20 司会:笹島雅彦)

国内問題を中心に3人が報告した。岡本至会員は、「戦後日本の防衛政策を支配してきた『言葉』」と題し、安全保障化理論の枠組みを援用しながら、戦後日本の防衛政策における特有の偏りを自己安全保障化仮説により説明を試みた。横堀惠一会員は、「最高裁判所砂川判決に見る憲法9条の姿」と題し、最高裁大法廷判決の憲法9条解釈を提示。我が国が必要な自衛の措置を取りうるのは、国家固有の権能の行使として当然であることを解説した。尾藤由起子会員は、「日本の戦略的コミュニケーションとWPS(女性・平和・安全保障)」と題し、統合抑止の観点から日本のWPS政策が十分に機能を発揮していない現状をズバリと指摘した。岩間陽子、吉田ゆかり両氏が討論でそれぞれの論点に対して、幅広い観点からコメントし、議論が深まったといえる。

共通部会 (13:00~15:20 司会:笹島雅彦)

「動揺する国際秩序と日米同盟の役割」をテーマに、久保文明・防衛大学校長と吉田圭秀・統合幕僚長の二人が基調講演に立った。久保氏は、「トランプのアメリカはどこに行くのか?」と題し、緻密な世論調査分析から、トランプ支持層の動向がよくわかる説明から入り、米国内の事情やトランプ政権の展望を浮き彫りにした。一方、吉田氏は、「歴史的分水嶺に立つ国際社会とわが国の安全保障」と題し、パワー・ポリティクスの時代にどう立ち向かうのか、という問いを立てた。笹島を交えた鼎談では、緊迫化するイラン情勢に焦点を当て、トランプ政権がどのように介入していくのか、ウクライナ戦争の教訓は何だったのか、など、現在進行形の戦争状況を正面から見据えた深い分析が提示されていった。会場からの質問は、オンライン上から集約する新しい方法が導入され、数多くの質問が集計された。

部会2 (15:40~17:40 司会:千々和泰明)

「アジア太平洋における『ハブ・アンド・スポークス』型同盟網の歴史的検証」をテーマとする本部会では、3名の報告者(井上麟太郎氏、石田智範氏、五十嵐隆幸氏)より、外交史・軍事史から見たANZUS条約の形成過程、日米韓安全保障協力に関するヴィクター・チャの理論の再検討、東アジア冷戦秩序への台湾の包摂、についてそれぞれ報告がなされた。続いて討論者(千々和泰明氏、佐竹知彦氏)とのあいだで、同盟網の一員としての同盟国側の自覚や、情勢変化が与えた影響などについて議論がなされた。フロアーとのあいだでも活発な質疑応答がなされた。トランプ2.0時代のミニラテラルな協力を考えるうえでも示唆に富む有意義な部会となった。

【6月22日(日)】

部会3 (10:00~12:00 司会:板山真弓)

「自衛隊の統合と日米共同防衛の行方——指揮・統制関係に注目して」をテーマに、陸軍種の視点からの日米共同と課題(梶原直樹元陸将)、統合/共同におけるロジスティクスの方向性(伊藤弘元海将)、渾然一体の運用(統合/共同の更なる一体化)(引田淳元空将)に関する報告が行われた。また、討論者(高見澤將林元国家安全保障局次長)よりAI等の技術発展と指揮・統制関係、日米共同の課題、有事への対応策等の観点から問題提起がなされた。フロアーからも多くの質問が寄せられ、報告者との活発な議論が行われた。全体を通して、統合/共同を進める上での様々な課題が示され、現在進行形の重要課題に対する今後の議論の土台となるような充実した部会であった。

部会4 (13:30~15:30 司会:佐久間一修)

「軍事技術と戦い方の変化—防衛イノベーションの創出に向けて」をテーマとして、ウクライナ紛争やイスラエル・イラン間の戦闘に見られる軍事技術と戦い方の変化についての議論が交わされ、米国が導入を推進しているJADC2に代表される、精密かつ大量な攻撃への機敏な対応を可能とする指揮統制アーキテクチャの重要性が強調されるとともに、それらを導入する際の課題として、意思決定の優越と物量のトレードオフ、意思決定に関するデータの同盟依存と自律のジレンマ等が指摘された。さらに、戦い方の変化をめぐる競争に適応し、リードするための防衛イノベーション・エコシステムの構築に向けた具体的方策につき活発な議論が交わされた。

部会5 (15:50~17:50 司会:相澤淳)

「多様化する安全保障環境と実効性ある自衛隊の国外活動に向けて」をテーマに、3名の報告者(奈良岡聰智氏、岩田英子会員、浦上法久会員)が登壇した。奈良岡氏から海上自衛隊遠洋練習航海の歴史的変遷及び意義について、岩田氏から多国間共同訓練・演習に関する自衛隊の役割の側面及びGENAD(ジェンダー・アドバイザー)の機能について、浦上氏から安全保障環境の創出の手段として期待されている能力構築支援が抱えている課題について報告された。討論者として湯浅秀樹会員及び彦谷貴子会員が登壇し、上記の報告に関してコメント及び報告者との質疑応答を行った。最後にフロアーも加わり活発な議論が行われた。